数式は、設計図として読む。自分が使う2つの道具

数式は、設計図として読む。自分が使う2つの道具
目次

式は、畳まれた文章です

教科書を開いても、論文をめくっても、要点はたいてい数式で書いてあります。文章にすれば3行かかることを、式は1行に畳んで書く。だから一目では開かない。ほんとうに、それだけの話です。畳んであるものは、開き方さえ知っていれば読めます。

今日は、自分がふだん式を読むときに使っている道具を2つ、実際の式で1回ずつ使ってみます。標準偏差とシグモイドという、性格のまったく違う式です。

その前に、どんな式にも効く0番目の手すりを一つだけ。記号は出てきた順に、そのまま日常語へ置き換えます。$\bar{x}$ は平均、$\sum$ は「全部足す」。この置き換えを続けるだけで、式の温度はだいぶ下がります。では本題へ。

道具①:設計図として、内側から外へ読む

一つ目の道具は、式を設計図として、内側から外へ順に読むことです。使う式はこれ。

$$s=\sqrt{\dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}(x_i-\bar{x})^2}$$

記号の並びとして眺めると壁に見えます。でも工程表だと思って、一番内側から読んでいきます。

まず内側の $(x_i-\bar{x})$。各データ $x_i$ が中心(平均 $\bar{x}$)からどれだけズレているか、です。プラスのズレもマイナスのズレもあります。

次に、その外側の $(\ )^2$。2乗すると符号が消えて、ズレが「大きさ」にそろいます。上へのズレも下へのズレも、同じ土俵に乗る。

さらに外の $\dfrac{1}{n}\sum$ は、そのズレ²を全部足して個数で割る。つまりズレ²の平均です。これが分散と呼ばれるものの正体です。

最後にいちばん外側の $\sqrt{\ }$。2乗して膨らんだ分をルートで開いて、元の単位に戻します。

標準偏差の式を内側から外へ4手順で読む設計図。①中心からのズレ→②2乗→③ズレ²の平均→④ルートで元の単位に戻す。
標準偏差の式を内側から外へ4手順で読む設計図。①中心からのズレ→②2乗→③ズレ²の平均→④ルートで元の単位に戻す。
式の部品何をしている
$x_i-\bar{x}$中心(平均)からのズレ(符号あり)
$(x_i-\bar{x})^2$2乗して符号を消し、大きさにそろえる
$\dfrac{1}{n}\sum(x_i-\bar{x})^2$ズレ²の平均(=分散)
$s=\sqrt{\dfrac{1}{n}\sum(x_i-\bar{x})^2}$ルートで元の単位に戻す(=標準偏差)

内側から外へ4手順を読み終えると、この式は「データが中心からどれくらい典型的に離れているか」を測る手順書だった、と分かります。記号の羅列ではなく、順番のある工程だったわけです。

道具②:極端な数を放り込んで、式に喋らせる

二つ目の道具は、極端な数を放り込んで、式に喋らせることです。使う式はこれ。

$$\sigma(x)=\dfrac{1}{1+e^{-x}}$$

これは設計図読みだけだと少し手ごわい式です。$e^{-x}$ が入っていて、構造を眺めても挙動がすぐには掴めません。こういうときは、極端な値を入れてみます。

$x=0$ を入れると $e^{0}=1$ なので、$\sigma(0)=\dfrac{1}{1+1}=\dfrac12$。ちょうど真ん中です。

$x$ をうんと大きくすると $e^{-x}$ は0へ近づき、$\sigma$ は $\dfrac{1}{1+0}=1$ へ。上に貼りつきます。

逆に $x$ をうんと小さく(負のほうへ大きく)すると $e^{-x}$ は大きくなり、$\sigma$ は0へ。下に貼りつきます。ただし0にも1にも届かず、近づくだけです。

シグモイドのS字曲線。x=0で1/2、両側で0と1に漸近する(届かず近づく)3点が曲線の骨格を決める。
シグモイドのS字曲線。x=0で1/2、両側で0と1に漸近する(届かず近づく)3点が曲線の骨格を決める。

たった3点打っただけで、「どんな実数を入れても0と1のあいだに押し込む、なめらかなスイッチ」という性格が立ち上がりました。ここに設計図読みも一言だけ重ねられます。分母は $1+e^{-x}$ で、$e^{-x}$ は必ず正だから分母は必ず1より大きい。だから値は必ず0と1のあいだに収まる。道具は組み合わせて効きます。

この0〜1に押し込む働きは AI と直結していて、数を「確率・確信度・オン/オフの度合い」に変えたいときの定番部品として出てきます。

道具は、式を選びません

標準偏差とシグモイドは、性格の違う別物の式でした。かたや4手順で読む手順書、かたや極端値で挙動が見えるスイッチ。それでも、同じ2つの道具でどちらも開きました。

つまり読み方は、特定の式に紐づく暗記ではなく、式から式へ転用できる一般スキルだということです。一度手に入れれば、初めて見る式にも同じ手が使えます。

式は、事象を一番濃く書き写した一文です。畳んであるだけで、開き方さえ知っていれば読める。それを読まずに飛ばしてしまうのは、けっこう、もったいない話だと思っています。

あわせて読みたい関連記事。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次